【文フリ春購入品】美化しない、卑下もしない、淡々として切実な女の子たちの物語 ~ぽつねんとして、
「文学フリマ」。東京では年に春と秋の2回、その他にも京都、札幌、広島など全国各地で開催されている「文学」のフリーマーケットである。
ただし「文学」の定義はわりとざっくりとしていて、中にはカテゴリで言えば漫画や写真集のような本も並んでいる。
私は2019年の秋に初めて一般参加者として足を踏み入れ、その後は出展者(サークル名は「即興詩朗読企画詩合)として二度参加している。
今年の5月16日にも、緊急事態宣言の発令される中規模を縮小して開催された。
そのときに買った本の中でも印象に残っているものについて、感想を記しておく。
今日はその1回目。
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●『しずか』 ぽつねんとして、
鈴木恵里さん(イラスト)と松山由佳さん(テキスト)によるユニット「ぽつねんとして、」。2020年秋の文学フリマで、『玲子と未帆』に一目惚れしたのが出会いだった。
イラストと文章で二人の女の子の心情が語られていく。それは物理的に表裏一体の形をとり、最後には互いへ宛てた手紙が現れる。繊細でガーリーなイラスト、美しい配色、凝った装丁で、ページをめくるのが楽しいような勿体ないような、なんとも贅沢な読書体験だった。二人の登場人物はそれぞれに揺れる気持ちを抱えながら、大それたドラマが起きるわけでもなく、また「ふたり」という関係性の中へ、少しだけ形を変えて収束していく。
昨年秋刊行の『さいごのふたり』は売り切れてしまっており、代わりに2019年6月発行の『しずか』を購入。
購入する際に作者の方と少しお話することができたのだが、この本は実在する女の子へのインタビューを経て製作したそうだ。「しずか」の幼少期の記憶から、大人になるまでの記録。そこには、ショッキングで悲しい出来事も含まれている。けれども大人になった彼女の達観したようなしたたかさにはどこか見覚えがあった。私の身の回りの同年代の女性、あるいは私自身の中にも、確かにそれに似た心の強張りや眼差しの鋭さを見つけてしまうことがある。
またこれも作者から伺ったことだが、『しずか』では子供の頃の描写にはイラストを多く使い、成長するにつれて文章のパートが増えていく構成となっている。とあることへの恐怖に怯える子供の「しずか」は言葉を手に入れ、目に見える世界という信号を理解し、言葉を操って世界と再びつながっていく。
昨今増えているシスターフッドを描いた作品にありがちな美化ともとれる眩しさに辟易している者や、シスターフッドに憧れつつもどこか馴染むことのできないジェンダー・アイデンティティのゆらぎに一抹の寂しさを抱えている人には、彼女たちの作品は通気口になるのではないかと思う。ただし、薄い紙で指を切るようなかすかな痛みを以て、その穴は開けられる。
内容が素晴らしいことはここまでの文章でできる限り伝えたつもりだ。装丁もまた素晴らしいことを書かねばならない。色とりどり、肌触りも様々な紙が使用され、手作業で綴じられている。先述の『玲子と未帆』では、トレーシングペーパーをコルセットのようにリボンで編み合わされたスリーブもついており、一冊の物語に細かな演出を与える。
先月末まで初台のmotoya Book・Cafe・Galleryにて販売とインスタレーションも行っていたそうで、私も残念ながら都合がつかなかった上この記事を7月に書いているのも本当に申し訳ないのだが、これからのますますのご活躍、ご発展をご祈念したい。
文学フリマ以外にも、中野ブロードウェイのタコシェでも取り扱いがあるようなので気になった方はぜひチェックを。
またnoteでも連載をされているのでこちらもシェアしておく。
この二人が紡ぐ小さな世界と再び会える日を楽しみにしている。